世の中には同じジャンルのものを3つくくって「三大○○」と呼ぶものがたくさんあります。世界三大珍味といえばキャビア、フォアグラ、トリュフ。日本三大夜景は函館、長崎、神戸。つまり、そのジャンルの代名詞となるような、誰もが認める優れたもの3つを集めているんですよね。
姫野一郎商店自慢の干ししいたけも「三大〇〇」と縁があります。それは何かというと「三大うま味成分」。
昆布に含まれている【グルタミン酸】、カツオに含まれている【イノシン酸】、干ししいたけに含まれているのは、、あれあれ、、もう一つ、何だったっけ?!ってなってませんか?
答え。干ししいたけに含まれているうま味成分は【グアニル酸】です。
【グアニル酸】は、ほぼ干ししいたけにしか含まれていないうま味成分なのですが、ついつい忘れられがちで馴染みの薄い名前ですよね、、。
ということで今回は、こういった「三大うま味成分」について詳しく説明しながら、干ししいたけに含まれる【グアニル酸】のスゴさに迫ります!
そもそも【うま味】って何なんでしょう?
そもそも【うま味】って何でしょう? 食レポする人がよく「おいしい!」「ウマい!」「うま味がすごい!」って言いますが、そもそも【おいしさ】と【うま味】は下記のようにまったく別ものなんです。
日本うま味調味料協会では下記の様に定義されています。
【おいしさ】
味だけでなく匂いや食感、その場の雰囲気や体調など、多くの要因に影響されて感じるもの。
【うま味】
5つの基本味(甘味・酸味・塩味・苦味・うま味)の一つで、独立した味を指す公式の呼び名。
参考:日本うま味調味料協会 「うま味」ってなんだろう? https://www.umamikyo.gr.jp/knowledge/
日本人が【うま味】を発見した!?
実はこの【うま味】、今から約100年前に日本人が発見したものなんです。
【うま味】が発見されるまでは、基本味が甘味・酸味・塩味・苦味の4つから構成されると考えられていました。
甘味のもと砂糖や酸味のもとである酢は、古くから調味料として使われてきたもので、塩にいたっては紀元前から人類が親しんできたもの。
この4つのどれもに当てはまらない味があることを突き詰めた人がいました。東京帝国大学(現在の東京大学)の池田菊苗博士です。
彼は、日本人が古来から出汁をとるのに使っていた昆布に着目し、ここから【グルタミン酸】を抽出。それを5つめの味【うま味】と命名したのが1908年のことでした。
その後、1913年に池田博士の弟子・小玉新太郎がカツオ節のうま味物質【イノシン酸】を発見。
【グアニル酸】がうま味物質であるという発見は、ヤマサ醤油の研究所に勤めていた國中明によって1957年になされました。ずいぶん最近の出来事なんです!
5つめの味【うま味】は、第一回うま味国際シンポジウム(1985年)で世界に発信されると、英語でも【umami】と呼ばれるようになり、今や世界中の料理人や美食家たちが注目する世界共通語となっています。
【うま味】は掛け合わせると相乗効果が生まれる
また、【うま味】は、それ一つでも十分に効果を発揮するものであるのですが、2つ以上を掛け合わせると、さらに美味しくなる(旨味が増す)と言う【相乗効果】があります。
特に、[アミノ酸系]のうま味×[核酸系]のうま味の組み合わせが、うま味を強くさせると言われています。
[アミノ酸系]グルタミン酸 ☓[核酸系]イノシン酸 or グアニル酸 = うま味の相乗効果
たとえば、日本ではグルタミン酸[アミノ酸系]を含む昆布 ☓ イノシン酸[核酸系]を含むカツオ節で出汁をとりますよね。海外でも、グルタミン酸を含む香味野菜 × イノシン酸を含む肉でスープの出汁をとります。
不思議と昔から、人々は経験値として【うま味の相乗効果】を知っていたなんて、すごいと思いませんか?
旨味成分として有名な【グルタミン酸】と【イノシン酸】。そしてついつい忘れがちな【グアニル酸】について
「三大うまみ成分」のうち、とくにポピュラーなのが【グルタミン酸】と【イノシン酸】。ついつい忘れがちな【グアニル酸】について、それぞれがどんな成分でどんな食材に含まれているかみていきましょう。
【グルタミン酸】について
【グルタミン酸】は、もとをたどれば体内のタンパク質の一部。
人の体内の20%はタンパク質でできていますが、これを構成するのが鎖状につながった20種類のアミノ酸で、【グルタミン酸】はそのうちのひとつです。
タンパク質は、細胞の主成分。体をつくるのに不可欠なものなので、人は体内で自然と【グルタミン酸】を合成するシステムを持っています。
そんな【グルタミン酸】が豊富に含まれている食材は次のとおり。
◎グルタミン酸を含む主な食材
昆布、トマト、タマネギ、アスパラガス、ブロッコリー、グリーンピース、チーズ、緑茶、マッシュルーム、ビーツ など
ちなみに、【グルタミン酸】は母乳にも含まれていて、赤ちゃんはこの【グルタミン酸】によって初めてうま味と出会います。そしてこのうま味は、体に取り込むべき栄養素であると知らせるシグナルの役割を果たしているのです。
【イノシン酸】について
【イノシン酸】は、【グルタミン酸】がアミノ酸の構成成分であるのと違って、核酸を構成する成分のひとつ。
人の体内では毎日細胞が新しく生まれ変わっていますが、細胞が生まれ変わるときに欠かせないのが核酸。
ちょっと化学的で難しい話になってきましたが、核酸には2種類あって、ひとつが遺伝子の本体DNA。もうひとつが遺伝子の情報処理を行うRNAだというと、少し分かりやすくるのではないでしょうか?
【イノシン酸】は、主に動物性の食材にたくさん含まれています。
◎イノシン酸を含む主な食材
カツオ、カツオ節、イワシ(煮干し)、サバ、鶏肉、豚肉、牛肉 など
決して忘れてはいけない【グアニル酸】について
さて、三大うま味成分の最後のひとつが【グアニル酸】です。グ・ア・ニ・ル・さ・ん。もう覚えましたよね!?もう忘れませんよね!?
この【グアニル酸】も、【イノシン酸】と同じ核酸のひとつ。しかしさっと頭に浮かぶ【グルタミン酸】や【イノシン酸】に比べて、この【グアニル酸】はついつい忘れがち!
なぜだか考えてみると、ほかのふたつに比べて【グアニル酸】は含まれている食材がごく僅かだからかもしれません。
◎グアニル酸を含む主な食材
干ししいたけ、のり、ドライトマト、乾燥ポルチーニ茸 など
そして、【グアニル酸】を豊富に含む食材といえば、ほぼ【干ししいたけ】に限定されるといってもいいのです。
【グアニル酸】の含有量は、干し椎茸がダントツ!
干ししいたけ以外で【グアニル酸】を含んでいる食材には、のり、ドライトマト、乾燥ポルチーニ茸などがありますが、含まれている【グアニル酸】の量を見てみると、干ししいたけがダントツ。
食材100g中に含まれるグアニル酸の主な含有量を見てみると次の通りです。
ーグアニル酸の含有量(100g中)ー
干ししいたけ 150mg
のり 3〜80mg
ドライトマト 10mg
参考:うま味インフォメーションセンター 食材別うま味情報 https://www.umamiinfo.jp/richfood/
同じしいたけでも、生しいたけには【グアニル酸】は含まれていません
生しいたけには【グアニル酸】ではなく、【グルタミン酸】が含まれています。
実は同じしいたけでも、生しいたけには【グアニル酸】は含まれていなく、これを干すことによって初めて【グアニル酸】が生成されるんです!!
それにくわえ、生しいたけにもともと含まれている【グルタミン酸】はなんと、干すことで15倍にも増えるので、干ししいたけひとつで【グルタミン酸】×【グアニル酸】といううま味の相乗効果が実現できるのです!
◎生椎茸
グルタミン酸含有量(mg/100g):70
◎干し椎茸
グルタミン酸含有量(mg/100g):1060
グアニル酸含有量(mg/100g):150
参考:うま味インフォメーションセンター 食材別うま味情報 きのこ類 http://www.umamiinfo.jp/richfood/foodstuff/mushroom.php#ANCHOR01
干し椎茸から【グアニル酸】を上手に抽出する方法
こんなにうま味成分が多い干ししいたけ。調理する際にできるだけこの豊富な【うま味】を逃したくないものです。 うま味を逃さない方法、あるのでしょうか?
もちろん、あります!
干すことで生成された【グアニル酸】のうま味は、低温の水で戻すことでさらに増加することもわかっています。
だとすると、正しく効果的な「水戻し」を行うことがうま味を逃さないコツ。
※最適温度は5℃で、特にうま味の強い115という菌種をこの温度で水戻ししたところ、グアニル酸の量が10倍にも増えた。という全農が行った実験結果の報告もあります。
5℃というのは、冷蔵庫内の温度。
ということで、【グアニル酸】を上手に抽出する理想的な戻し方は以下。
1)密閉タッパーに干ししいたけを入れ、ひたひたになるくらいの水を注ぐ
2)冷蔵庫でひと晩寝かせる(夜仕込んで朝には使えるくらいの気持ちでOK)
3)戻し汁も余さず使う
以上の3ステップ!
水戻しと言うと手間と感じる人も多いとは思いますが、寝ている間にうま味が醸し出されていると思うと楽しみですし、何より、炒めたり蒸したりと調理を行う必要がなく「水につけるだけ」と考えればいたって簡単ですよね?
詳しい水戻し方法については豆知識のページでも紹介していますので、ぜひご覧ください!
しいたけの冷凍保存の極意!冷凍保存を上手に活用して毎日の食卓に旨味を!
干し椎茸の戻し方比較。水につける時間で戻し汁(出汁)の旨味に違いは出るのか試してみた。
まとめ
「うま味」というのは基本五味のひとつで、「おいしさ」とは異なるれっきとした「味」です。
では、三大うま味成分を、それぞれ最も多く含んでいる食材と並べておさらいしてみましょう。
◎グルタミン酸 → 昆布
◎イノシン酸 → カツオ節
◎グアニル酸 → 干ししいたけ
生しいたけに含まれているのは【グルタミン酸】。干ししいたけに含まれているうま味成分は【グアニル酸】。
【グルタミン酸】や【イノシン酸】が多くの食材に含まれているのに比べて、【グアニル酸】は、ほぼ干ししいたけにしか含まれていません!
そして、この【グアニル酸】のうま味をもっと強く感じる方法がふたつ。ひとつは、「相乗効果」を狙って、アミノ酸系の【グルタミン酸】を含む食材と組み合わせて使うことです。そしてもうひとつが、きちんと正しく、5℃くらいの冷蔵庫で「水戻し」すること。
【グルタミン酸】【イノシン酸】に比べて忘れがちな【グアニル酸】ですが、干ししいたけのことをよく知って、食べて、好きになると興味がどんどん湧いてきて、【グアニル酸】といううま味の名前がすーっと頭に入ってきそうですね。
うま味が強く体にも良い、いいことづくめの干ししいたけ。ぜひ大分県産原木干ししいたけで、最高のうま味を味わって、好きになってください!